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〈ワインがもたらす豊かな時間・前編〉マリアージュの余韻

家で食事をする機会も増えた昨今、大切な人とワインを楽しみたいと思うこともきっと多いはず。もしそうならば、その想いはワインに相応しい。ひとりで味わうのもいいが、ワインは誰かと一緒においしい料理、そして豊かな時間を分かち合うためにある。「田辺由美のWINE SCHOOL」校長の田辺由美氏とともに、私たちが等身大で楽しめるワインの在り方を考える。

※この記事は前編です。後編はコチラ

Text:Natsuko Sugawara
タイトル写真:©「COSTA NOVA」/日本総代理店 株式会社カサラゴ

田辺 由美(たなべ ゆみ)
「田辺由美のWINE SCHOOL」校長/サクラアワード 主宰/審査責任者

北海道池田町出身。「十勝ワインの生みの親」丸谷金保を父にもつ。主催する「田辺由美のWINES CHOOL」は2022年に30周年を迎える。14年から女性による国際ワイン審査会"SAKURA"Japan Women'sWine Awards(通称:サクラアワード)を主宰、審査責任者を務める。著書に『田辺由美のワインブック』『田辺由美のワインノート』『~十勝の宝石~ 由美ちゃん、ワイン造るの?』(飛鳥出版)ほか多数。

ワインは〝酒〞ではなく
料理の隣にあるもの

最近では、ワインはコンビニやスーパーでも気軽に手に入り、身近なものとなった。とはいえ、依然としてワインはどこか気後れのする存在だ。西欧の歴史や文化、習慣と混然一体となって見えることも近寄りがたいが、無数のぶどう品種からなるラインアップの膨大さに付け焼刃の知識では太刀打ちできないと感じる方も多いのではないだろうか。

しかし、「田辺由美のWINESCHOOL」校長の田辺由美氏は、むしろそれがワインの魅力だという。

「現在、使われているだけでも1,000種類以上のぶどう品種があり、さらに今話題のシャインマスカットなど新しい品種が次から次へと出てくる」

「これほどバラエティに富み、しかも何千年にもわたって世界中で造られ続けているお酒はきっとほかにはないでしょう。ひとつ知れば、十の疑問が湧いてくる。それがワインのおもしろさです」

実際、田辺氏も「わからないこと」がワインへの興味のはじまりだった。

「私は昔から食べることが大好きなのですが、食べ物ならメニューに素材と調理法が書いてあれば、だいたいどういう味かわかりますよね。ところがワインは違う」

「レストランでワインリストをはじめて目にしたとき全くわからず、大変ショックでした。だからこそ知りたいと思うようになったのです」

その後、アメリカに留学し、ワインのコースを受講するなどして見識を深めていく。バラエティの多さ、味わいの違い、造り手の存在……ワインのさまざまな面を知るにつれ、「長編小説を読むかのようにワインの深みにはまっていった」という。

「そもそも、フランスのようなワイン生産国の人たちにとって、ワインは私たちの考えるような〝お酒〞ではありません。むしろ、お茶に近いかもしれない」

「料理の脇に必ずあるもの、そして食事の度に飲むものですから、決して高価なものではありません。今でも田舎へ行くと、道路の傍らにワインの量り売りがいて、ポリバケツなんかに4Lくらいまとめて買っていく光景が見られますが、それくらいカジュアルで生活に根ざしたものなのです」

とはいえ、フランスは美食の国だ。ミシュランの星付きレストランに行くと、また違うワインの飲み方がある。

「料理のレベルがあがればワインのレベルもあがります。コース料理に合わせて、スパークリングではじまり、魚料理には白、肉料理には赤というように出されるワインの種類も変わってきますし、デザート代わりに甘口のフォーティファイドワイン(※)を塩気のあるチーズと一緒にいただいたりと、贅沢な楽しみ方をします」

安価な量り売りも、高級レストランのコースのワインも、どちらも正真正銘のワイン。この幅の広さもワインの魅力だが、共通しているのは料理の存在だ。

※醸造途中にアルコールを添加し、コクと保存性を高めたもの。

「マリアージュはフランス語で結婚を意味する言葉ですが、アメリカではペアリングともいいます。つまり料理とワインの組み合わせのこと」

「フランスやイタリアでは地産地消がごく当たり前で、その土地で採れた食材を料理に使いましょう、その土地でできたワインを料理に合わせましょう、ということが自然に行われてきました」

「例えば、ボルドーの料理にはボルドーのワイン、ブルゴーニュの料理にはブルゴーニュのワイン、海に近いプロヴァンス地方なら魚介類が豊富なので白やロゼのワインが多く造られるというように。その土地の食材にその土地のワインを合わせるのが、一番良いマリアージュであるとされてきたのです」

マリアージュが生む
豊かで親密な食の時間

では、日本の食事にワインは合わないのだろうか?

「意外かもしれませんが、和食にも日本の家庭料理にもワインは合います。醤油はワインと同じ発酵食品なので、実は良く合います」

「ほかにも、カレーのような少しスパイシーな料理にはボジョレーなどジューシーで軽めの赤ワイン、麻婆豆腐のような中華には甘口の白ワインもいいでしょう」

この懐の深さが、ワインが世界中で飲まれる所以でもある。2014年、田辺氏はワイン業界で活躍する女性が選ぶワイン審査会「サクラアワード」を立ちあげた。選ばれたワインは確かな品質かつ手頃な価格で、家庭でも飲みやすい味と評され人気だ。

「家庭で飲んでいただけるように、受賞ワインはスーパーでも売られています。そのスーパーのコーナーで若いご夫婦が今晩の献立を思案しながら『今日はどのワインにしよう?』と選んでいたそうです」

「新型コロナウイルスの影響で家で食事をすることが多くなり、料理に合わせてワインも、という傾向が強くなってきました。ポジティブに考えると、これは日本の食文化がさらに豊かになってきている兆しともとれます」

ワインは家庭料理をおいしく演出し、食事に和やかな雰囲気を醸し出す。

「それに、ワインを飲むと喧嘩はしないといいますから。これは先ほどお話ししたマリアージュが関係しています。料理と一緒にいただくので、がぶ飲みすることもない。つまり悪酔いすることがないのです。

「料理を味わいながらゆっくりワインを飲む。そうすると、リラックスして心地良く食事を楽しめるし、家族の会話も弾みます。
忙しくてゆっくり夕食をとれないという方は、就寝前に大切な方と一緒にワインとチーズのマリアージュを味わってみてください」

「サクラアワード2021」の審査会場の様子。
審査はすべてワイン業界で活躍する女性によって行われ、
エントリーされたワインは4,562アイテムにものぼった。

「一日のうち、ほんの20分でもそんな時間があると、互いの心が豊かになるのではないでしょうか」

家族や友人の間だけでなく、ビジネスでの会食でもワインは効果を発揮する。

「特にビジネスの席や初対面の間柄では、政治や宗教の話はNG。そんなとき目の前にあるワインが会話の糸口になります。ワインには造られた国や地域、歴史などさまざまなストーリーが込められていますから」

「ゲストの出身地のワインを用意してあげるのも良いでしょう。ワインは世界中で造られているのでそれができてしまう。私は北海道出身ですが、もし北海道のワインが用意されていたら、相手との距離がグッと縮まりますね」

最後に、ワイン選びに迷ったときのアドバイスをいただいた。

「魚料理なら白かロゼ。特にロゼは汎用性が高くて料理に合わせやすい。手頃な価格のスパークリングワインも、和食であればどんな料理にも合うのでおすすめです」

「選ぶときはラベルに書かれたぶどう品種に注目してください。白ならシャルドネ、ソーヴィニヨンブラン、リースリングなど、代表的なものからひとつずつ試してみることをおすすめします」

「まずは自分の好みを知ること。それが大切です」


〈ワインがもたらす豊かな時間・後編〉多方面から見るワインの楽しみ方 はコチラ


※掲載の情報は2021年11月1日現在のものとなります。


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