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〈なでしこジャパンのDNA・前編〉世界で輝く女性活躍のフィールド

2021年、日本女子サッカー界の長年の悲願であった女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が発足。

WEリーグでは「日本の女性活躍社会を牽引し、日本に女性プロスポーツを根付かせ、日本女子サッカーの発展に貢献し、なでしこジャパンを再び世界一にする」というビジョンを掲げている。

そこでサッカー界で自ら道を切り拓いてきた女性に、サッカーシーンにおける女性活躍の可能性を語ってもらった。

※この記事は前編です。後編はコチラ

Text:Junko Hayashida
Photograph:Sachi Kataoka, Keisuke Nakamura
タイトル写真:JFA/アフロ


山下 良美(やました よしみ)サッカー国際審判員
1986年生まれ。幼少期よりサッカーを始め、東京学芸大学女子サッカー部、社会人クラブを経て、2012年に女子1級審判員、15年に国際審判員、19年に1級審判員の資格を取得。21年にはJリーグ史上初となる女性の主審リスト入りを果たす。2022年、FIFAワールドカップカタールでは、ワールドカップ史上初となる女性審判員の主審3名のうちの1人に選出され、日本人として唯一審判入りを果たした。2023年開催のFIFA女子ワールドカップでも審判員を務める。

◆紡いできた女性審判員の道筋を次世代へと繋げるために

女子サッカーへの貢献をめざし
審判員の道へ

女性初の主審としてJリーグ、AFCチャンピオンズリーグのピッチに立ち、FIFAワールドカップでは女性初の主審候補に選ばれるなど、サッカー界で女性活躍の場を広げてきた山下良美氏。

だが、自らがその立場に立つまで、女性審判員が持つ可能性には気づいていなかったという。

「正直、自分が選ばれるまでJリーグや男子ワールドカップのピッチに立てる可能性を女性が持っていることに気づいていませんでした。自分がその立場に立って初めて、女性審判員でも男子ワールドカップのピッチに立つという夢や目標を持ってもいいんだと理解したんです」

「そして女性審判員が活躍する可能性を広げるためには、私がしっかりと審判を務めあげることが大事だと感じました」

幼少期からサッカーをしていた山下氏のこどもの頃の夢は「プロサッカー選手」。だが、当時は日本に女子のプロリーグはなく、夢を叶える道がなかった。

「だからと言って、審判員を仕事にするつもりもなかったんです。3級を取ったのも大学の先輩で、現在審判員として一緒に活動している坊薗真琴さんに『4級よりも3級のほうが資格の更新が楽だよ』と騙されたのがきっかけぐらいですから(笑)」

気持ちに変化が現れたのは、2級審判員の資格を取得したことだった。当時、2級審判員は女子トップリーグのなでしこリーグの副審を担当することができた。

「サッカー選手にはなれなかったけれど、審判員として女子サッカー界に何かしらの貢献ができるのではないかと考えて、仕事として向き合うことに決めました」

そして2019年には女性として4人目となる1級審判員を取得。Jリーグのピッチに立てるのは1級審判員のみ。だが、資格を持っていても、前出のようにその可能性には気づいていなかった。

「特に女性に対しての参入障壁があったわけではないんです。前例がないから、そういう道があることに気づいていなかった。ただ、私がJリーグで初めて女性審判員としてピッチに立ったことになっていますが、実際には過去にJFL(日本フットボールリーグ)で笛を吹いた先輩女性たちはいるんです」

「先輩方が積み重ねてきた実績があり、JFAやリーグの方々の尽力があり、全国各地で男性の試合を女性審判員が務めたことで築きあげた信頼があったからこそ、私が初めてJリーグのピッチに立つことができて、今がある。その道を私も後輩たちに繋げていかなくてはいけないし、そのために1試合1試合を全力で取り組みたいと思っています」

現在、女性の1級審判員は山下氏を含めて2人。審判員には基本的なルールだけではなく、ゲーム状況に応じて予測できる知識、90分間途切れることのない集中力、審判員同士のマネジメント能力、選手に負けない体力やポジショニングの技術など、多くのスキルが求められる。

「加えて試合前の準備も大切です。例えばフィジカル面であれば、Jリーグの体力テストに常に受かるレベルを維持するため、毎日トレーニングが欠かせません」

「知識面では試合前に両チームの分析をして、起こりうるプレーや事態を予測し、そのために自分はどんな引き出しを用意すべきかを考えます。試合では選手のプレーを予測し、細部まで見逃さず動けるように、ほかの審判員と綿密に打ち合わせをします」

「また試合を振り返るところまでが審判を担当した責任だと思っているので、試合映像を見返して、次の試合に向けての改善点などを検討します」

「メンタル面では、毎試合、審判を担当するプレッシャーはもちろんありますが、私の場合は準備をしていると、それがモチベーションとなってポジティブな気持ちに変わっていくので、この作業が準備にもなっているとも言えますね」

本人は「選ばれた理由はわかりません」と笑うが、こうした地道な準備と、実績を重ねたことも、ワールドカップ初の女性審判員としてリスト入りを果たした一因になったのではないだろうか。

「国際審判員の魅力のひとつは、国際大会で世界中から集まった審判員と、大会を成功させるというひとつの目標に向かって一体となれることだと思っています。国籍の違いも、性別の違いもなく、お互いへの信頼関係のもと、力を合わせていく」

「この一体感はすばらしいものです。日本人として、女性として、しっかり務めを果たさなければいけないと身が引き締まるとともに、そのような責任を持てることもうれしく思っています」

世界的ビッグゲームで活躍する彼女たちの姿を見て、今後審判員をめざす女性も増えるかもしれない。

「4級審判員は誰でも取れる資格です。こどもがサッカーをしているから審判員の資格を取得した方もいますし、国際審判員になった人の中には、選手実績がない方もいますので、ぜひ挑戦してみてほしいですね」

「また、私自身がその可能性に気づかなかったように、まだまだ知られていない女性の活躍の機会が多くあるのではと感じています。今後はそれを見つけ出していくことで、次に続く女性たちがより活躍できる環境へと繋がるのではないかと思っています」

国際親善試合、なでしこジャパン対ウクライナ女子代表での山下主審。
©JFA

審判員から見た
なでしこジャパンの魅力

23年7月からはいよいよFIFA女子ワールドカップが開幕。山下氏も審判員として大会を支えていく。2011年の優勝から12年、山下氏から日本の女子サッカーはどのように見えているのだろうか。

「なでしこジャパンはいつもフィジカル面での課題が指摘されますが、個人的にはスピードや強さは世界で通用すると思っています。また、統制されたディフェンスラインや、息の合ったパスワークなども日本のストロングポイントでしょう。実際、海外の審判員には日本戦はポジショニングが難しいとよく言われます」

「なでしこジャパン優勝後の2015年には皇后杯の決勝を担当しましたが、このとき本当に多くのお客様がスタジアムを埋めていて。日本の女子サッカーはこんなにも人を惹き付けることができるんだと感動したのを覚えています。今大会も女子サッカーが盛りあがるきっかけになってくれるのではないか、選手たちもきっとやってくれるのではないかと期待しています」

山下氏が試合で実際に使っているカードとホイッスル。
瞬時に判定をしないといけないため、日々のトレーニングが欠かせない。


〈なでしこジャパンのDNA・後編〉サッカーを通じて女性がより輝くために はコチラ


※掲載の情報は2023年6月1日現在のものとなります。


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