進化が“個々のベスト”
を導く

「この3年ほどの間に、スマートウオッチの先駆けであるAppleWatchの利用者数が順調に伸びるなど、『ウェアラブル』という市場が世界的に確立してきました。なかでも多彩な商品が生まれているのが、スポーツとヘルスケアという2つの分野です」。

「ウェアラブル」研究の第一人者である神戸大学大学院工学研究科教授の塚本昌彦氏は、ウェアラブルデバイスをめぐる近年の動向をそう俯瞰する。特にスポーツ系デバイスでは、世界のスポーツメーカーがこの分野での急成長を見据えて積極的に展開し、IT企業や大学機関とのコラボレーション開発にも活発だ。メガネ型やインソール型など製品形態は多様で、プロアスリートからアマチュア、高齢者までと対象とする層も幅広い。「トップアスリートの世界では、“ウェアラブル+データ解析”で勝負が決まる流れが顕著。体に装着するセンサー機器の値から、適切なトレーニングや呼吸、食事などのベストな方法を選ぶといった綿密管理がなされています。そうした機能が、一般ユーザーに向けてより普及していくと思います」。

一般向けでは、トレーニングの向上に加え、安全性確保、コーチや仲間とのコミュニケーションなどにもデバイスが有効活用され、スポーツライフを充実させる。バッテリーの持続時間や小型化、装着性も年々改善され、裾野が広がるポテンシャルはまだまだ高い。「例えばランニングでも、人によってベストなフォームや運動量は違いますから、ウェアラブルなセンサー機器を用いて個々の最適を見つけていくことが、今後の世界の常識になっていくと思います。またゲーム性の高いスポーツ系デバイスも増えるでしょう。ウェアラブルデバイスを使った鬼ごっこやサバイバルゲームなどは、eスポーツの対局に位置づけられると思います」。

「ウェアラブル」研究の第一人者である神戸大学大学院工学研究科教授の塚本昌彦氏は、ウェアラブルデバイスをめぐる近年の動向をそう俯瞰する。特にスポーツ系デバイスでは、世界のスポーツメーカーがこの分野での急成長を見据えて積極的に展開し、IT企業や大学機関とのコラボレーション開発にも活発だ。メガネ型やインソール型など製品形態は多様で、プロアスリートからアマチュア、高齢者までと対象とする層も幅広い。「トップアスリートの世界では、“ウェアラブル+データ解析”で勝負が決まる流れが顕著。体に装着するセンサー機器の値から、適切なトレーニングや呼吸、食事などのベストな方法を選ぶといった綿密管理がなされています。そうした機能が、一般ユーザーに向けてより普及していくと思います」。

一般向けでは、トレーニングの向上に加え、安全性確保、コーチや仲間とのコミュニケーションなどにもデバイスが有効活用され、スポーツライフを充実させる。バッテリーの持続時間や小型化、装着性も年々改善され、裾野が広がるポテンシャルはまだまだ高い。「例えばランニングでも、人によってベストなフォームや運動量は違いますから、ウェアラブルなセンサー機器を用いて個々の最適を見つけていくことが、今後の世界の常識になっていくと思います。またゲーム性の高いスポーツ系デバイスも増えるでしょう。ウェアラブルデバイスを使った鬼ごっこやサバイバルゲームなどは、eスポーツの対局に位置づけられると思います」。
健康意識の高まりや超高齢社会といった社会環境も相まって、ウェアラブルデバイスのなかでもすでにさまざまに実用化されているのが、健康管理を目的としたヘルスケア系のデバイスだ。塚本氏も「体にコンピュータやセンサーを装着し、体を動かしながら利用できるウエルネスのための機器は、ウェアラブルデバイスの応用先として本命のひとつ。日々の生体情報をモニタリングし、きちんと管理できることは、普段の生活のなかで使うものとして、また医療の世界において本質的に重要な機能」と指摘する。目下のトレンドとしては、血圧や血中酸素飽和度、血糖値、など、循環器系に関わる情報の常時モニタリングの急激な進化があげられるのだとか。「今、最も多く使われているのは、加速度センサーによる毎日の活動量の計測ですね。歩数計や、レム睡眠、ノンレム睡眠といった睡眠サイクルを推定するものがこれに当てはまります。

もうひとつは心拍や脈波の測定。心拍数を見て運動量が適切かどうか、異常がないかどうかなどがわかります。脈波を解析すれば、交感神経と副交感神経のどちらが優位な状態かがわかるので、集中しているかボーッとしているかも明らかに。これを応用すれば、勉強や仕事の効率的な時間を割り出すアプリなどもつくれるわけです」。さらに、血圧や血糖値などが日常生活の中で常時モニタリングできるようになれば、メタボリック症候群といった生活習慣病の改善に、インパクト効果が大きい。「人間は自分の体のことは案外知らないものですが、“わかる"ことが改善の第一歩です。血糖値の上下を見ることで、健康に良い食事を考えるなど日々の微調整ができる。実際、デバイスをうまく活用すれば、この10年ほどのスパンで人類は、肥満などの生活習慣病を克服できるかもしれません」。

課題ももちろんある。例えば、測定値の精度の問題。厳密さが必要な場合、ラフな指標でいい場合、目的に応じて使いわけたいところだ。また、新しい発想から生まれたデバイスなら「運動中の血糖値・血圧とはどういうものか?」といった新しい定義や基準を構築していく必要性も出てくる。「我々のようなアカデミックな領域や、医療機器メーカーなどが取り組むべき新しい研究対象が、デバイスの進化とともに出てきますね。いずれにしても、ウェアラブルによる生体情報の測定は今後、健康管理に欠かせないものになると思います」。

「スマートウオッチがもっと浸透し、次にスマートグラス、ARグラスの大きな波が10年以内に確実にきます。スマホが生活を変えたように、それらが人々に大きな変化をもたらすと思います」と、ウェアラブルの近未来を予測する塚本氏に、期待の分野としてエンターテインメント系のデバイスについてもうかがった。「そもそも“エンタメ要素”はウェアラブルにおけるポテンシャルのひとつです。例えば、ヘルスケアでも、エンタメ性を加味することでその効果や継続性を高められる。ダイエット中に食べ過ぎたら、スマホアプリ内の電子ペットも太るといった楽しさを企てたりと、そういうことが大事だと思います。

一方、ウェアラブルデバイスは誰もが身に着けるだけで使いこなせ、より良い生活を享受できるのが理想です。その点、エンタメのデバイスはまだ使う側にある程度の知識が必要な段階です。しかし、おもしろいチャレンジが多い。リアルにフィジカルを使う遊びに、ウェアラブルの機器でバーチャルを掛け合わせたようなゲームには、今後の世界のあり方への示唆を感じます」。
ウェアラブルは、リアルな実生活を豊かにするものだとも話す。「「ITによる人類の進化として、バーチャルへと突き進んで家に居ながら楽しい生活を送るのと、リアルな空間をより豊かで楽しくするのと、2つの方向性があると考えますが、ウェアラブルはまさにリアルを充実させるためのツール。装着して屋外でスポーツをし、人との出会いを楽しむ。元気な高齢者が増える一助になるといいですね。多くの人々の人生が豊かに楽しくなるようなサポートができるものであればと思っています」。

塚本昌彦
1964年、大阪府生まれ。
情報工学者、神戸大学大学院工学研究科教授(電気電子工学専攻)。 ウェアラブルコンピューティング、ユビキタスコンピューティングの システムとその応用分野における研究の第一人者。 自らヘッドマウントディスプレイといったデバイスを約20年装着し、 学術探究から企業との開発、市場啓蒙などにいたるまで、 積極的に「ウェアラブル」の普及に貢献している。