「私自身はアーティスト・シンキングだと思っています」。
既存の課題に対し、最適なソリューションを導き出すのではなく、問題は何なのかと、自ら“問い”を生み出し発想するアート・シンキング。今ビジネスシーンでイノベーションを生み出す考え方として、最も注目されているこの思考法について、どう思うか? というこちらからの問いかけに対し、スマイルズ代表の遠山正道氏は、ゆっくりとした口調で話しはじめた。
「大切なのは、自らの意思ではじめること。画家は『自分が描きたい!』と思ったからこそ描きます。アートを“見る側”ではなく“する側”であること。それは起業することにも似ています」。今までは、世の中にビジネスの種がたくさんあり、その種をマーケティングで見つけ、果実をもぎとればよかった。しかし、これからの時代は、アーティストのように“個人”が重要になると遠山氏は言う。「私も、会社員だった頃は、組織やクライアントの“依頼ごと”、つまり課題解決を専門としていました。命令・指示を素早く的確に解決する人が優秀とされていました。しかし一体何をすればよいのか見失っている人が多い今の時代、上司も何を指示すればよいかわからない。課題を失ってしまった今、皆が気づきはじめました。『自分は何をしたかったのだろう』と。これまで目を逸らしてきたことに意識が向きはじめたことで、組織に依存するのではない“個人”というものの優先順位があがってきているのではないでしょうか。働き方も個人化し、プロジェクトごとに人が集まっては散っていく。つまりアーティスト的な“個”としての働き方です」。
スマイルズは個人が軸になった、いわば“自分ごと”の集合体のような会社。それぞれが自立し、“自分ごと”としてプロジェクトを進めている。“依頼ごと”ではない“自分ごと”だからこそ、やりがいが生まれるのだ。
「最近では、『iwaigami』というプロジェクトにも参画しています。最もシンプルな結婚式を提案するブランドで、「結婚式の在り方自体、考え直したい」という問題提起からスタートしました。これからは、自分の幸せを軸にやりたいことを実現できる。そんな時代になっていくと思います」。
それぞれがアーティストのように、“個”としてビジネスに取り組む。自分発信だからこそのプレッシャーはあるが、それは同時にモチベーション向上にもつながる。アート・シンキングにより、個としての自分に立ち返り、ビジネスの目的を再定義する。それこそが、これからの時代を生き抜く近道なのかもしれない。
それと、もうひとつ大事にしたのは、共感です。アートの世界で、共感した人だけが作品を買ってくれるように、お客様との共感を大切にしたいと思っています。スープを飲んだ人が笑顔となって広がっていく共感。スープストックトーキョーは、自分たちにとってそんな“作品”でもあるのです」。
スマイルズが運営する「PASSTHEBATON」は、持ち主のプロフィールやその品にまつわるストーリーを添えて販売する新しいリサイクルショップ。愛着のあるものだからこそ、大切に使ってくれる人へ渡したい。その想いをカタチにしている。
「現在、マッスルスーツの出荷台数は12,000台を超えましたが、まだ新市場の開拓ができた程度。個人、企業、国内外を問わず、もっと広く普及させていきたいですね」。
楕円形の屋根で有名な「ふじようちえん」。手塚貴晴氏と手塚由比氏は、その園舎を設計した建築家だ。設計するうえで二人が目指したもの。それは、こどもがこどもらしくいられる場所。