パソコンやスマホがあれば、どこでも聴ける。「radiko」のタイムフリーやエリアフリー機能を駆使すれば、好きな時間に、エリア外の番組までもが聴ける。この十数年でラジオは大きな進化を遂げ、より身近な存在となった。今回はFMラジオ局J-WAVE(81. 3FM)の松尾健司氏とともに、ラジオの魅力を考えてみた。
「生放送中に地震が起こり、どういう放送を続けていけばいいか悩みました。もちろん情報を発信していくことも必要ですが、リスナーから多く寄せられたのが、『同じ時間に同じ人の声が、いつもと同じように聴こえてくる。不安の中、それが心に響きました』というメール。3・11を境に、各ラジオ局は世の中にとって良いメディアでありたいという『ソーシャルグッド』の意識を強くもつようになりました」。
20年4月1日、J-WAVEは「#音楽を止めるな」プロジェクトをスタートさせた。コロナ禍で大打撃を受けた音楽、アーティスト、ライブハウスを応援する試みだ。「僕たちはいつも音楽からパワーをもらって放送をしてきたので、音楽業界に恩返しをしたかったんです。今できることをとにかく早くやる、考えなら走ると決めて、『#音楽を止めるな』の傘の下、さまざまなことを実施しました。チャリティTシャツの販売に始まり、緊急事態宣言下の昨年のゴールデンウイークには、ステイホームを呼びかける音楽フェスを15時間の特番として放送し、投げ銭のシステムも取り入れました。集まったお金はライブハウスやアーティスト、医療従事者支援に充てられ、僕らもソーシャルグッドなことができたかなと感じています」金銭的なチャリティだけではない。特番に対するリスナーの反響は大きく、「ラジオから生の音楽が聴こえてきて涙が出た」という声も。音楽やラジオが人の心に寄り添えるものだという実感を得た、と松尾氏は語る。ラジコの聴取者数は、J-WAVEの番組史上最多を記録したという。「J-WAVEでは『リクエスト』という言葉を使っていないんです。『皆さんのミュージックシェアをお寄せください』。つまり、自分が聴きたい曲ではなく、みんなと共有したい曲ということ。ラジオは1対1のメディアではあるけれども、それと同時に1対nというか、みんなと横につながっているような連帯感があると思っています」。
音楽の力だけでなく、ラジオがもつ言葉の力にも、毎日のように勇気づけられているという松尾氏。「ある番組で『私の地味自慢』を募集したんですが、エンディングでナビゲーターが『でも地味っていうのはいつか絶対、形になるもんね』と言ったのです。それまでの地味でクスッと笑えるメールが、すごくいい言葉に昇華したなと思いました。ラジオは映像がない分、いろいろなことを想像できるし、それを自分に置き換えてみようとする。聴こえてきた言葉がすべてではなくて、その周りは無限大。欠けているからこそ魅力的。それがラジオです」では、ラジオの未来はどうなっていくのだろうか。「放送という核はありつつも、その枠からどんどん外れていく気がします。J-WAVEは、新しいオーディオコンテンツ市場の創造が課題ですし、別にラジオ受信機から流れなくてもいい。いろいろなところに蛇口を増やしていかなきゃいけない。スマホやスマートスピーカーなど最先端の機器でラジオが聴けるということは、やっぱりまだ可能性はあるし、オールドメディアではなく、『OLD but NEWなんだ』という気持ちでやっていこうと思っています」。
脳を鍛えるためには、多くのトレーニング法があるが、ラジオの継続的な聴取もそのひとつだ。耳から音声情報だけを取り込むラジオは、脳の「聞く力」、さらには脳全体に働きかけるという。脳科学の視点から、ラジオの有益性を探っていく。
ラジオから流れてくるトークや音楽には、思いがけない出合いがある。常に刺激を求める脳に新たな情報をもたらし、思考を促してくれる良質なラジオ番組を紹介しよう。
コロナ禍の人々を救うソーシャルグッドな企画や、放送の枠を越えた新しい市場の開拓。社会の変化やリスナーのニーズに合わせて、進化していくラジオの新しい試みを見ていこう。
ライフスタイルや趣味嗜好に合わせて、もっとラジオを楽しみたい。そんな人におすすめのインターネット経由でラジオが聴けるアプリや、ラジオの受信や録音ができる便利なギアを紹介する。