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財務・経理

法定福利費に含まれる費用とは?計算方法と仕訳例を解説!

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法定福利費に含まれる費用とは?計算方法と仕訳例を解説!
法定福利費は会社の福利厚生に関わる経費であり、事業者はもちろん従業員にとっても重要な費用のひとつです。しかし、法定福利費とはそもそも何なのか、福利厚生費とは何が違うのか正しく理解できていない人も多いのではないでしょうか。この記事では、法定福利費に含まれる費用や福利厚生費との違い、法定福利費の計算方法や仕訳例について解説します。

法定福利費とは?どんな費用が含まれる?

法定福利費とは?どんな費用が含まれる?

法定福利費には6つの種類があり、いずれも企業が必ず負担しなければなりません。

法定福利費の概要

法定福利費とは健康保険法や労働基準法、厚生年金保険法などさまざまな法律によって定められた福利厚生費用のことです。業種や会社の規模を問わず、加入要件を満たした従業員を雇用するすべての事業主が負担しなければなりません。

福利厚生制度には「法律が規定する法定福利厚生」と「法律が規定しているわけではない法定外福利厚生」の二種類があります。前者が本記事の前半に説明する「法定福利費」、後者が本記事の後半で説明する「福利厚生費」です。

事業主にとって法定福利費の負担は決して少なくありません。しかし、従業員に長く安心して働いてもらうためには欠かせない費用となっています。

法定福利費に含まれる費用

法定福利費には次の6つが含まれます。

1.健康保険
従業員やその家族が加入し、被保険者や被扶養者が出産や病気、ケガをしたときに治療費を一部負担したり、
医療費などを支給したりする保険制度のことです。加入することで
医療サービスを受けたときの自己負担額が軽減されます。

正社員は原則として全員加入、パートやアルバイトなども労働条件によっては加入義務が生じます。
また日本ではすべての国民に対して公的医療保険に加入することが義務付けられています。
75歳未満の人のうち、法人勤務の人は「健康保険」に、
自営業者や短時間労働者、無職の人は「国民健康保険」へ加入しなければなりません。

なお、健康保険料は従業員と企業で折半して負担します。

2.介護保険
加齢によって発生する心身の変化に対して、必要な介護を受ける際に適用される保険制度のことです。
こちらも健康保険と同じく保険料は労使折半、企業と従業員が5:5の割合で費用を負担します。

被保険者は65歳以上の「第1号被保険者」と40~65歳未満の「第2号被保険者」に区分されます。
事業者、従業員の多くはこのうちの第2号被保険者にあてはまりますが、
この場合の保険料は、満40歳に達した月から64歳まで支払わなければなりません。

3.厚生年金保険
被保険者が老後も安心して生活できるよう、老齢(原則として65歳以上)や
加齢にともなう障害、死亡に対して給付金が支払われる保険制度のことです。
健康保険や介護保険と同じく保険料は労使折半、企業と従業員が5:5の割合で費用を負担します。

日本に住む20歳以上60歳未満の自営業者や短時間労働者、無職の人には「国民年金」への加入が、
65歳未満の法人勤務などの人は「厚生年金」に加入することが義務付けられています。

4.労災保険
従業員が業務中の事柄などにより負傷した際、被保険者の公正な保護を行うために給付する保険制度のことです。
正式名称は「労働者災害補償保険料」。
従業員をひとりでも雇っていれば、正社員でなくても加入の対象となります。保険料は事業主の全額負担です。

5.雇用保険
何らかの理由で離職した従業員や、育児や介護で長期休業する従業員をサポートするために
必要な給付を行う保険制度のことです。
なお労災保険と雇用保険には法人と区別はなく、対象となる労働者がひとりでもいれば強制的に加入義務が生じます。

雇用保険にも事業規模は関係ありません。
1週間の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがある人を雇い入れた場合は、
パートやアルバイトであっても加入の対象となります。

失業手当を給付するイメージが強いことから「失業保険」とも呼ばれますが、
教育訓練給付や育児休業給付、キャリアアップ助成金など雇用と被雇用の両面からさまざまな支援を行っています。

6.子ども・子育て拠出金
2015年まで「児童手当拠出金」と呼ばれていた法定福利費です。
15歳未満の子どもを持つ家庭に給付される児童手当や仕事と子育ての両立支援事業、
そのほか子どもに関するさまざまな事業に活用されています。

従業員に負担義務はなく、全額事業者から徴収されます。
社会全体で子育てにかかる費用を負担しようという考えにもとづいており、
独身者や子どものいない従業員も対象となります。

参考:国土交通省「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」
参考:国土交通省「法定福利費を内訳明示した見積書」について

勘定科目「福利厚生費」とはどう違う?

勘定科目「福利厚生費」とはどう違う?

法定福利費と混同しやすいものに「福利厚生費」があります。

福利厚生費には明確な定義がない

法定福利費は法律で義務付けられた保険料ですが、福利厚生費に関して厳密に定めている法令はありません。そのため福利厚生費は「法定外福利費」とも呼ばれています。国税庁のホームページにも「福利厚生費はこれとこれ」と書かれているわけではなく、非常にあいまいな制度です。

福利厚生費とは、企業が従業員の健康維持やモチベーション向上などを目的として独自に行っている給与以外の報酬やサービスにかかる費用のことです。事業主が任意で負担する費用であり、取り組み次第で幅広い支出が福利厚生費となります。しかしその内容によっては福利厚生費として認められない場合もあります。

福利費として計上する要件は?

福利厚生費に明確な定義はありませんが、一般的に以下を満たす支出が福利厚生費として計上されます。

1.支出の対象が従業員全員である
2.支出金額やその内容が社会通念上妥当なものである

一部の役員や従業員を接待する支出は福利厚生費になりません。また内容とその金額が社会通念上妥当なものであるかどうかは、支出の頻度や目的と照らし合わせて個別に判断する必要があります。

福利厚生費に該当することが多い費用

福利厚生費として認められることが多い費用として、以下の項目があげられます。

1.住宅手当:社宅の賃料や持ち家ローンの補助など、従業員が住む住宅にかかる補助
2.交通費:従業員の通勤にかかる支出の補助
3.慶弔見舞金:傷病見舞金や出産祝金、災害見舞金や結婚祝金など
4.慰安旅行:全社員の50%以上が参加している、かつ旅行の期間が4泊5日以内の旅行にかかる支出
5.親睦会、新年会、忘年会など

福利厚生費に該当しない可能性がある費用

福利厚生費として認められるためには「すべての従業員が利用できること」と「支出金額が常識的に妥当な範囲であること」のふたつの要件を満たす必要があります。つまりこれを満たしていない支出は福利厚生費として認められません。

また、そもそも福利厚生費は雇用した従業員のために支出された費用であり、雇用する側の個人事業主やその家族のための支出は福利厚生費になりません。個人事業主が福利厚生費を計上できるのは家族以外の従業員がいて、かつその従業員のために支出した費用のみとなります。

【費用別】法定福利費の計算方法

【費用別】法定福利費の計算方法

法定福利費は、各法定福利費の保険料率に則って正しく計算する必要があります。以下の例の場合、各法定福利費はどのように算出されるのか見ていきましょう。

・東京都在住(健康保険率9.84%)
・標準報酬月額:36万円
・賃金総額:400万円
・小売業(労災保険料0.3%)
・協会けんぽの介護保険第2号被保険者(介護保険率1.64%)
・一般の事業(雇用保険料率0.095%:事業主負担2/3)
※数値は2022年7月時点のものです。

健康保険の場合

健康保険料=標準報酬月額(標準賞与額)×健康保険料率
例)標準報酬月額36万円×健康保険料率9.84%=35,404円
事業者負担分は1/2(35,424×1/2=17,712円/月)

 

介護保険の場合

介護保険料=標準報酬月額(標準賞与額)×介護保険料率(協会けんぽは一律1.64%)
例)標準報酬月額36万円×介護保険料率1.64%=5,904円
事業者負担分は1/2(5,904×1/2=2,952円/月)

厚生年金保険の場合

厚生年金保険料=標準報酬月額(標準賞与額)×厚生年金保険料率(18.3%)×1/2
例)標準報酬月額36万円×厚生年金保険料率18.3%=65,880円
事業者負担分は1/2(65,880×1/2=32,940円/月)

労災保険の場合

労災保険料=賃金総額×労災保険料率
例)賃金総額400万円×0.3%=12,000円
全額事業者負担(12,000円÷12ヵ月=1,000円/月)

雇用保険の場合

雇用保険料=賃金総額×雇用保険料率×負担割合
例)賃金総額400万円×0.095%=3,800円
事業者負担分は事業の種類によって異なる(一般事業の場合は労働者負担3/1000、事業主負担6/1000)3,800円×2/3÷12ヵ月=211円/月

子ども・子育て拠出金の場合

子ども・子育て拠出金=標準報酬月額(標準賞与額)×子ども・子育て拠出金率
例)標準報酬月額36万円×子ども・子育て拠出金0.036%=1,296円
全額事業者負担(1,296円/月)

参考:国土交通省「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順 」
参考:国土交通省「法定福利費を内訳明示した見積書」について

法定福利費の仕訳例

法定福利費を仕訳する際は、以下の内容で帳簿付けを行います。以下の例の場合、どのように仕訳を行うのでしょうか。

 ・会社から従業員に給料支給
・給料30万円
・社会保険料6万円
・普通預金からの支払い

給与からの天引きしたときの仕分け

借方 金額 貸方 金額
給料 30万 普通預金 27万
    預り金 3万

借方には従業員に支払う給料30万円を、貸方には普通預金27万円、預り金3万円を記入します。この預り金とは「従業員が支払う社会保険料を会社が預かっています」という意味です。社会保険料は労使折半なので、6万円の1/2、3万円を記入しています。
 

翌月末に保険料を支払う場合の仕分け

借方 金額 貸方 金額
法定福利費 3万 普通預金 6万
預り金 3万    

徴収しておいた社会保険料を翌月末に納付した際は、借方に会社負担分の法定福利費3万円と、従業員から徴収した預り金3万円を記載します。貸方に記入するのは普通預金6万円。社会保険料の納付を普通預金から支払ったという履歴を残します。
 

預り金を省略した場合の仕分け

借方 金額 貸方 金額
給料 30万 普通預金 27万
    法定福利費 3万

法定福利費は複雑な仕訳になるため、場合によっては預り金を省略することもあります。その場合、法定福利費を一旦貸方でマイナス計上します。仕訳は借方に給料30万円、貸方に普通預金27万円と法定福利費3万円を記入します。

借方 金額 貸方 金額
法定福利費 6万 普通預金 3万
       

その後翌月末の納付で借方に法定福利費6万円、貸方に普通預金3万円を記入して全額仕訳します。これで借方に計上した6万円-貸方に計上した3万円=3万円の法定福利費が計上されたことになり、結果的には同じ会計処理になります。

 

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まとめ

法定福利費は法律で支払が義務付けられている福利厚生用の費用です。従業員のためには必要不可欠な費用ですが、企業にとってはまとまった支出となります。法定福利費について正しく理解し、これを上手に活用することができれば節税対策にもなります。法定福利費は法改正のタイミングや従業員のライフステージなどによって変動するため、計算の際はミスがないよう十分注意しましょう。