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財務・経理

先入先出法、最終仕入原価法とは?棚卸資産の評価方法を解説

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先入先出法、最終仕入原価法とは?棚卸資産の評価方法を解説
製品・商品を扱う企業では決算時に棚卸資産の金額を確定しなければなりません。そのためには在庫数をチェックするなど、具体的な作業に加えて会計基準に則った方法で正確に資産を評価する必要があります。経営者として資産管理の術を覚えておきましょう。

先入先出法を活用して正しく資産を評価する

さまざまな製品や商品を扱う企業では、決算時期の前に自社で抱えている資産を評価する意味で「決算棚卸」を行います。それ以外にも業種や企業によっては、月に1回など定期的な「実地棚卸」を行う場合もあります。
棚卸資産を評価することは、その企業の1年間にわたる経営状況と財務状況を把握する上で必要不可欠です。また、企業の資産評価は正確さと公平さが求められる作業でもあります。

正確な棚卸を行うために、商品有高帳(しょうひんありだかちょう)に商品の出入りを記録します。しかし同じ商品を仕入れる場合でも、時期によっては仕入れ価格やそれに付随する費用が変化することがあります。このような商品単価の変化を、正確に棚卸に反映させるための方法が先入先出法です。

先入先出法は、先に受け入れた商品を先に払い出すと仮定して、先入先出の原則に従い払出単価を決定します。

つまり先入先出法では先に受け入れた棚卸資産から順次払い出し、後から受け入れた棚卸資産が在庫として残るという考え方に基づき、最終的な棚卸資産を評価します。

次に先入先出法を使う経理上のメリットについて考えてみましょう。最も顕著な特徴は、棚卸の処理が現実的な商品の流れと連動しているという点で、大きく2つのメリットが挙げられます。

1:実際の商品の流れと一致する

消費期限のある食品を例に考えてみましょう。実際の売り場でも先入先出の原則が守られているため、当然仕入れ時期の早い商品から店頭に並び、次に後から仕入れられた商品を補充することになります。消費者は消費期限をかなり気にするので、先入先出を徹底しないと新しい商品から売れてしまい、古い商品が残るという事態になりかねません。

こうした現場での商品の流れと、経理上の先入先出法とは極めて一致しやすいという特性があります。実際の受け入れ原価が帳簿に反映されるため、現場での在庫管理と経理上の在庫とのずれが小さく済みます。

2:期末棚卸資産の貸借対照表価額が時価に近い

先入先出法では、貸借対照表に反映される期末棚卸資産価額が、時価に近くなるという点もメリットです。つまりこの点でも、経理上でより正確な在庫計算が可能になります。

先入先出法を活用する具体例

簡易的なサンプルとして帳簿上ではどのような処理を行うのかを一例を挙げて解説します。ある企業が単価100円の商品を受け入れる取引をベースにした先入先出法の具体例です。

4月1日に単価100円の商品を100個受け入れたと仮定します。そのうち80個を4月中に払い出し、5月1日に新たに100個を受け入れます。この時の単価は110円になっていたとします。

この時点で4月分の在庫20個と、新たに受け入れた100個は帳簿上別々に管理します。次に5月に70個の商品を払い出したと仮定します。この時には4月分の在庫20個から先に払い出し、それに追加して5月分の50個を払い出したと考えます。

結果的には5月に受け入れた分の残り50個が、翌月の6月に繰り越されるという仕組みです。この処理を繰り返すことで、古い在庫分から先に払い出され、常に新しい単価の商品が在庫として残るというシステムができあがります。これが先入先出法の概略です。

覚えておきたい先入先出法のデメリット

一方で、先入先出法は、価格変動の対応に正確さを欠くというデメリットがあります。実際の仕入れは価格変動に柔軟に対応して行われるため、直接的な影響は少ないと考えられますが、知識として頭に入れておく必要はあるでしょう。

インフレやデフレの場合

先入先出法のデメリットが問題になるのは、インフレやデフレなどによる極端な価格変動が起こった場合です。こうした状況では過去の在庫商品価格と現在の販売商品価格との間に大きなギャップが生じるため収益と費用との整合性が保てなくなる可能性もあります。

例えば決算前がインフレの状況下では販売価格が上昇するため、過去の在庫商品価格とのギャップが大きくなり、実際よりも過大な利益が計上されることになります。その反対にデフレの状況下では、販売価格の下落に対して過去の在庫商品価格が高く評価されるため、実際よりも過小な利益が計上されます。

先入先出法以外の評価方法

ここまでは先入先出法について解説してきましたが、これ以降は先入先出法以外の棚卸資産評価方法についての概要を紹介します。自社の経理業務に合った評価方法はどれなのか、ぜひ参考にしてみてください。

個別法

個別法は宝石や不動産のように、仕入・販売単価が高額で商品の特殊性が高いものに適した棚卸資産評価方法です。そのため大量に仕入・販売を行う商品に対しては対応できません。資産の個別性が高いことが条件となります。

個別法では取得原価が異なる棚卸資産を、それぞれ個別に管理して、資産評価もそれぞれ個別に行います。原価と売上が完全に一致することが特徴です。非常に正確な資産評価ができる反面、管理に手間がかかることがデメリットと言えるでしょう。

総平均法

総平均法は平均原価法の1つで、事業年度中に仕入れた棚卸資産の平均原価をもとに資産評価を行うことが特徴です。基準になる原価は年度中に仕入れた原価の総額を総個数で割って求められます。期末棚卸資産価額は、平均原価に在庫数を掛けることで算出されます。

総平均法では先入先出法とは異なり価格変動の変化を受けにくいです。平均をもとにするため、年度中の価格変動が分散されるからです。一方でデメリットとしては、年度中のある1点では原価計算ができないことが挙げられます。

移動平均法

移動平均法も平均原価法の1つで、総平均法と同様に平均原価をもとに資産評価を行います。大きな違いは平均原価を求めるタイミングで、移動平均法の場合は仕入れが発生する度に平均原価を求めることになります。

移動平均法のメリットは、年度中のある1点でも原価計算ができることが挙げられます。そのため任意の時点での財務状況を把握することが可能です。ただし仕入れの度に平均原価を求める手間がかかり、総平均法に比較して煩雑な資産評価法と言えるかもしれません。

売価還元法

売価還元法の特徴は、他の資産評価方法が主に原価をもとに算出するのに対して、まったくアプローチが異なる売価をもとに算出することです。ごく端的にまとめると、原価を売価で割って原価率を算出し、それを期末棚卸資産の売価に掛けることで資産評価を行うという方法です。

実際にはより複雑な計算が必要になりますが、商品をグループ化することで多種多様な商品を扱うことができるため、正確な資産評価が最低限の手間で可能になります。デメリットとしては、グループ化する場合の判断基準が難しいことが挙げられるでしょう。

最終仕入原価法

原価をもとにした最も簡便な資産評価方法が最終仕入原価法です。この方法では事業年度内で最後の仕入原価をもとにして、期末棚卸資産すべての資産評価を行います。ただしこの方法は、会計基準の中では条件付きで認められたものであり、より詳細で正確な資産評価が必要な財務管理では適用できない可能性があります。

メリットとしては実際の取引価格に近い資産評価ができる点と、何よりも評価に手間がかからないことが挙げられます。一方で棚卸に近いタイミングで大きな価格変動があった場合に、期末棚卸資産に対する影響が大きくなり、先入先出法と同様に収益と費用との整合性が保てなくなる可能性があります。

低価法

売価還元法以外は原価をもとに資産評価を行いますが、低価法ではそれに加えて棚卸資産の期末時価も利用します。これも極めて端的に紹介すると、低価法では帳簿上の原価と棚卸資産の期末時価とを比較して、評価額が低い方をもとに資産評価が行わます。

商品モデルの入れ替わりが多い業種などでは、期末棚卸資産の評価を低く抑えられれば、財務上の利益が減るため節税が可能になります。ただし低価法を採用するためには、税務署に「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を提出しなければなりません。

棚卸資産の評価方法を変更する場合はどのように対応するべきか

ここまで見てきた期末棚卸資産の評価方法は、大きく分けると低価法とそれ以外の原価法とに分類されます。先入先出法も原価法の中の1種類です。棚卸資産の評価方法は、規定に従って届出を行わない限り、一律最終仕入原価法で決算処理を行うことになります。これは評価方法の違いによる利益操作を防ぐためです。

例えばある企業が、その事業年度の業績に合わせて棚卸資産の評価方法を自由に変更できるとすると、実際よりも利益を低く抑えられる評価方法を選ぶことにより、税額を少なくすることが可能になってしまいます。

そのような利益操作を防ぐために、通常は最終仕入原価法に決められており、別な評価方法を選択する場合には、事前に「棚卸資産の評価方法の届出書」を提出しなければなりません。提出は会社を設立した第1期の法人税の確定申告の提出期限と同一です。

また、原価法から低価法に変更する場合には、変更する事業年度開始の前日までに、「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を提出する必要があります。棚卸資産の評価方法を変更するには、基本的に届出が必要だということを覚えておきましょう。

棚卸資産の評価方法は、事業内容に合わせること

期末棚卸資産の評価方法には、それぞれにメリットを持ったいくつかの方法があります。ただし、すべての評価方法を企業が自由に選択して、決算処理に利用できるものではありません。業種によっては合わない評価方法があるからです。

多くの業種では、現場での商品の流れと一致しやすい先入先出法が、最も適合性が高いかもしれません。しかし業務内容を精査して、より自社に合った評価方法がある場合には、積極的にとり入れてもよいでしょう。その場合は事前の届出を忘れないようにすることが重要です。