更新日:
公開日:
財務・経理

財務改善の重要指標「安全余裕率」。損益分岐点比率との関係性まで解説

  • Facebook
  • X
  • Line
財務改善の重要指標「安全余裕率」。損益分岐点比率との関係性まで解説
財務的な観点から見て「経営にどのくらい余裕があるか」を分析したい場合には「安全余裕率」という指標が参考になります。安全余裕率の計算方法や目安、改善方法を解説しつつ、損益分岐点売上高や損益分岐点比率についても紹介します。

経営にどれくらいの余裕があるかを確認できる

安全余裕率とは、実際に得られた売上高が損益分岐点売上高をどのくらい上回っているかを表す指標のことです。詳細は次章で説明しますが、損益分岐点売上高とは赤字を回避するうえで最低限達成すべき売上金額を意味します。つまり安全余裕率とは損益分岐点と売上高の間にある黒字部分の割合であり、経営の余裕度合いを表しています。

数値が高いほど経営の余裕度が高く、反対に数値が低いと経営に余裕がない状態だと判断できます。

損益分岐点売上高が起点になる

安全余裕率をはっきりと理解するには、損益分岐点売上高に対する理解が不可欠です。損益分岐点売上高とは、利益がちょうど0円となる売上高のことです。損益分岐点売上高を実際の売上高が上回れば黒字、反対に下回れば赤字となるため、損益分岐点売上高を計算すれば「いくら稼げば赤字とならずに済むか」を判断することができます。

損益分岐点売上高の計算式

損益分岐点売上高は、以下の計算式で求めることができます。

・損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動費率)

固定費とは、売上高の増減に関係なく一定額発生する費用のことです。一方で変動費率とは、売上高に占める変動費(売上高の増減に比例して増減する費用)の割合であり、「変動費÷売上高」で表すことができます。つまり損益分岐点売上高は、実際に稼いだ売上高や変動費、固定費のデータがあれば式に当てはめるだけで簡単に計算できます。

損益分岐点売上高の計算例

以下に示した簡単な計算例を使って、損益分岐点売上高の計算プロセスを確認しておきましょう。

・売上高:1億円
・固定費:500万円
・変動費:2,500万円

損益分岐点売上高を求めるには、まずは変動費率を計算することが必要です。変動費率は、変動費を実際に稼いだ売上高で割ることで計算できます。

・変動費率=2,500万円÷1億円=0.25

あとは、前述した計算式に当てはめて損益分岐点売上高を求めます。

・損益分岐点売上高=500万円÷(1-0.25)≒ 667万円

つまり今回の例では、約667万円以上の売上高を稼ぐことができれば黒字となります。

安全余裕率の計算方法を覚えて実際に活用する

損益分岐点売上高について理解しておけば安全余裕率の計算は決して難しくありません。この章では、安全余裕率の計算方法について具体例を交えつつ解説します。

安全余裕率の計算式

安全余裕率は、以下に示した計算式で求めることができます。

・安全余裕率(%)={(実際の売上高-損益分岐点売上高)÷実際の売上高}×100

つまり実際の売上高と損益分岐点売上高の差を計算し、それを実際の売上高で割ったうえで100をかけることで安全余裕率が求めることが可能です。

安全余裕率の計算例

例えば実際の売上高が1億2,000万円、損益分岐点売上高が1億円の場合、安全余裕率は以下のように計算できます。

・安全余裕率={(1億2,000万円-1億円)÷1億円}×100=20%

安全余裕率が20%ということは、実際の売上高が損益分岐点売上高を20%分上回っていることを表します。言い換えると損益分岐点売上高の20%に相当する金額(2,000万円)までならば売上高が減少しても赤字にならないことを意味しています。1億2,000万円から2,000万円を引くとちょうど損益分岐点売上高である1億円と合致することからも、安全余裕率が表す意味は理解できるでしょう。

赤字の会社だと安全余裕率はどうなるか

では、赤字の会社だと安全余裕率はどうなるのでしょうか?結論から言うと赤字の場合、安全余裕率はマイナスの数値となります。赤字ということは、実際の売上高が損益分岐点売上高を下回る状況です。例えば実際の売上高が8,000万円、損益分岐点売上高が1億円の場合、赤字は2,000万円です。この場合の安全余裕率は以下のとおりです。

・安全余裕率={(8,000万円-1億円)÷1億円}×100=-20%

安全余裕率が-20%ということは、実際の売上高が損益分岐点売上高を20%分下回っていることを表します。言い換えると赤字の状態から脱却するには、損益分岐点売上高の20%に相当する金額(2,000万円)だけ売上高を伸ばす必要があると判断できます。

安全余裕率と損益分岐点比率の関係性

安全余裕率と類似する指標に「損益分岐点比率」と呼ばれるものがあります。ここでは、安全余裕率と損益分岐点比率との関係性を解説します。

損益分岐点比率とは

損益分岐点比率とは、損益分岐点売上高と実際の売上高比率のことです。具体的には、以下の計算式で損益分岐点比率を表すことができます。

・損益分岐点比率(%)=(損益分岐点売上高÷実際の売上高)×100

損益分岐点比率が小さいほど売上高の減少に対する耐性が高い点で好ましいです。一般的には、80%を下回っていると優良な水準です。反対に100%を超えると赤字となるため、まずは損益分岐点比率が100%を下回るように注力したいところです。

安全余裕率+損益分岐点比率は必ず100%になる

安全余裕率と損益分岐点比率の間には、足し合わせるとかならず100%になるという関係性があります。例えば損益分岐点売上高が2,000万円、実際の売上高が8,000万円である場合、安全余裕率と損益分岐点比率はそれぞれ下記のように計算できます。

・安全余裕率={(8,000万円-2,000万円)÷8,000万円}×100=75%
・損益分岐点比率=(2,000万円÷8,000万円)×100=25%

安全余裕率の75%と損益分岐点比率の25%を足し合わせるとピッタリ100%となることがわかるでしょう。この性質から、安全余裕率と損益分岐点比率は以下の計算式で表すこともできます。

・安全余裕率=100-損益分岐点比率
・損益分岐点比率=100-安全余裕率

自社の数字はどれくらい?覚えておきたい安全余裕率の目安

安全余裕率を確認すれば、経営にどのくらいの余裕度合いがあるかを判断できます。一般的に言われている安全余裕率の目安を下記に示すので、経営改善の参考にしていただきたいです。

安全余裕率 数値が表すこと
0%未満 赤字。重点的かつ迅速な改善が必要
0%~10%未満 要注意。なるべく早めの改善が必要
10%~20%未満 日本企業における平均的水準。20%以上を目指すとなお良い
20%~40%未満 安全圏。さらに多く利益を増やしたいならば、40%以上を目指すのが良い
40%以上 利益を多く確保できる点で理想的な水準
 
10%未満の場合には改善が不可欠です。20~40%未満の場合には安全に経営を行える状態です。ただし利益を手元に多く残したいならば40%以上の安全余裕率を目指す必要があります。

経営の余裕度を高めるために確認したい、安全余裕率を改善する方法

安全余裕率に問題がある場合には、改善策を講じて経営の余裕度を高めなくてはなりません。安全余裕率を改善するには、以下の3つの方法が有効です。

1:売上高を増加させる

安全余裕率を改善したい場合、まずは売上高を増加させるのが有効です。なぜなら費用の削減には限界がある一方で売上高の増加には理論上限界がないからです。売上高を増加させる方法は、大きく「商品・販売数の増加」と「商品・サービスの単価向上」の2種類に大別できます。商品・販売数の増加を目指すには、営業を強化して新規顧客を増やしたりアップセル・クロスセルにより既存顧客の買い上げ品数や頻度を高めたりすることが有効です。

一方で商品・サービスの単価向上には、顧客のニーズに合う商品や希少価値の高い商品の提供、商品・サービスを差別化するといった施策が有効です。ただし売上高が増加しても費用が大幅に増加してしまうと、安全余裕率の改善につながらない可能性があります。そのためなるべく費用を増やさない形で売上高を増やすことが重要です。

2:固定費を減らす

費用を増やさずに売上高を伸ばすのは、あくまで理想であり実現するのは簡単ではありません。実現が難しい場合には、固定費を減らす形で安全余裕率の改善に努めるのがおすすめです。後述する変動費とは異なり固定費は売上高(生産量)の増減とは関係なく一定額だけ発生する費用です。そのため収益の獲得に直結していない固定費を削減できれば簡単かつ大幅に安全余裕率を改善することが可能です。

安全余裕率の改善に向けては、主に以下の固定費を削減するのが効果的です。

・事業所や工場の家賃を下げる(交渉や場所の移転など)
・広告宣伝費や販売促進費を削減する(効果が薄いマーケティング施策をやめる)
・余分な人件費を削減する(事業規模に合わせて人を減らす)

どの固定費が売上に直結していないかはケースバイケースです。安全余裕率の改善にあたっては、一つ一つの固定費を分析したうえで削減に努めるのが重要です。

3:変動費を減らす

安全余裕率の改善にあたっては、変動費を減らすのも選択肢の一つです。変動費とは、原材料費や外注費、運送費など生産量や売上高の増加に伴って金額が変動する費用です。変動費を減らせば損益分岐点売上高が減少するため、安全余裕率の改善にもつながるでしょう。ただし変動費の大半は、売上を得るうえで不可欠な費用であるため、下手に削減すると売上高も減ってしまう可能性が高いです。

そこで、まずは固定費の削減や売上高の増加に注力し、それでも改善が必要な場合にのみ変動費の削減に努めるべきです。実際に削減する際にもなるべく売上高に影響しにくい変動費から削減することを意識しなくてはなりません。

長期間安定した経営を続けるために不可欠な指標

安全余裕率が低い場合、たとえ現時点では黒字でも外的な要因によって売上高が減少したときにいとも簡単に赤字に陥ってしまいます。長期的に経営を存続させるには、売上高の減少に耐えられるだけの余裕を持っておく必要があります。そのためには、定期的に安全余裕率を測定し、必要に応じて改善策を講じていくのが重要です。