開業資金を調達するには?個人事業主が融資を受ける際のポイント
本記事では、開業資金の調達方法として「融資」を中心に、その他の選択肢や融資を受ける際の注意点を解説します。これから事業を始めたいと考えている方に向けて、役立つ情報をお届けしますので、ぜひ最後までご覧ください。


開業資金はいくら必要?
独立開業を目指す方にとって、最も気がかりなのは開業資金の調達ではないでしょうか。必要となる資金は業種や事業規模によって大きく異なります。しかし、適切な計画を立てることで、必要以上の資金調達を避けることができます。
ここでは、実際のデータを基に開業資金の目安と主な用途について解説します。
開業に必要な資金の目安
日本政策金融公庫総合研究所が実施した「2023年新規開業実態調査」によると、開業費用の平均額は1,027万円、中央値は550万円となっています。これは、開業1年以内の7,032社を対象とした調査結果です。
業種によって必要な資金は大きく異なります。例えば、飲食店や美容室といった店舗型ビジネスでは、設備投資や内装工事などにまとまった資金が必要です。一方、コンサルティングのような無店舗型ビジネスは、比較的少額での開業が可能です。
ただし、事業を継続していくためには、最低でも3か月分の運転資金を準備しておくことが推奨されています。これは、事業が軌道に乗るまでの期間、売掛金の回収状況が不安定な可能性があるためです。場合によっては、さらに長期の運転資金を確保することも検討すべきでしょう。
開業時における主要な資金用途
開業時に必要となる資金は、大きく次の2種類に分類できます。
・ 設備費用
・ 運転資金
設備費用には、店舗や事務所の賃借料、敷金・礼金・保証金などの初期費用が含まれます。また、店舗のリフォームや内装工事費用も必要です。事業に不可欠な機械設備や事務機器などの購入費用も設備費用の一部となります。これらは購入だけでなく、リースという選択肢もあります。さらに、インターネット回線の工事費用なども忘れずに見積もっておく必要があります。
運転資金としては、家賃や光熱費といった固定費に加え、広告宣伝費、商品や材料の仕入れ代金、従業員の人件費などが挙げられます。これらは事業を継続していく上で欠かせない資金となります。
開業資金の調達方法(融資編)
開業資金の調達において、「金融機関等からの借り入れ」は全体の約65%を占める重要な手段です。
以下では、個人事業主が活用できるさまざまな融資制度について、それぞれの特徴や利用のポイントを解説します。
日本政策金融公庫の新規開業資金
日本政策金融公庫は、個人事業主や中小企業の資金調達を支援する政府系金融機関です。新たに事業を始める方、または事業開始後概ね7年以内の方を対象とした「新規開業資金」制度を提供しています。
融資限度額は最大7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、民間金融機関と比べて金利が低く、返済期間も長めに設定されています。さらに、女性、若者(35歳未満)、シニア(55歳以上)の起業家は、特別利率で融資を受けられる場合があります。
事業計画書や資金用途を明確に示すことで、審査に通りやすくなります。開業準備の段階から計画的に準備を進めることが重要です。
金融機関・自治体の制度融資
各自治体では、地域経済の活性化を目的とした独自の融資制度を設けています。例えば、東京都内の個人事業者向けの「創業融資」では、創業から5年未満の事業者を対象に、最大3,500万円までの融資を提供しています。
区市町村の認定特定創業支援等事業による支援を受けると、金利の優遇措置を受けられる場合もあります。また、女性・若者・シニア向けに、信用金庫や信用組合と連携した低金利・無担保の融資制度も用意されています。
信用保証協会の保証付き融資
信用保証協会は、47都道府県と4市に設置された公的機関で、中小企業の円滑な資金調達をサポートしています。例えば、東京信用保証協会の創業融資では、一定の要件を満たせば3,500万円までの融資を受けることができます。
信用保証協会が債務を保証することで、金融機関からの融資が受けやすくなります。自治体によっては、保証料の一部を補助する制度もあります。
ノンバンクによる融資
銀行などの金融機関からの融資が難しい場合でも、ノンバンクの融資制度を利用できる可能性があります。ノンバンクは預金業務を行わない金融機関で、銀行よりも融資の審査基準が緩やかです。
無担保・保証人なしでの申し込みが可能な場合もありますが、金利は比較的高めに設定されています。そのため、開業資金の調達においては、他の融資制度の利用を優先的に検討することをおすすめします。
ビジネスローンでの融資枠の確保
カードローンや事業者向けクレジットカード(ビジネスカード)を活用することで、迅速な資金調達が可能です。これらは原則として使い道を制限されず、無担保・保証人なしで申請できる特徴があります。
ただし、金利は高めに設定されているため、返済計画を綿密に立てる必要があります。また、ショッピング枠を利用して必要な機材等を購入することで、開業準備を進めることもできます。
開業資金の調達方法(融資以外編)
融資以外にも、開業資金を調達する方法は複数存在します。返済不要な助成金・補助金や、支援者から資金を集めるクラウドファンディング、個人からの出資など、それぞれの特徴を理解して活用することで、より柔軟な資金調達が可能になります。
助成金・補助金
国や地方自治体では、各種助成金・補助金制度を実施しています。融資とは異なり、原則として返済義務がないため、開業資金の負担を軽減できる有効な手段です。
助成金は、定められた要件に適合すればほとんどの場合受給できます。一方、補助金は上限が決められており、より適した事業者が受給できる仕組みとなっています。ただし、両者の区別が曖昧になっているケースもあるため、各制度の要件を細かくチェックする必要があります。
【関連記事】起業時に活用できる補助金・助成金11選|申請の流れや注意点も解説
クラウドファンディング
クラウドファンディングは、インターネット上で不特定多数の人から資金を募る方法です。クラウドファンディングサイトに事業の内容や目的を掲載し、支援を募ります。
商品やサービスのエンドユーザーから直接支援を受けられる点が特徴です。十分な資金を集められるかどうかは、事業の魅力を効果的にアピールできるかにかかっています。また、支援者に対するリターンを用意することで、より多くの支援を集めやすくなります。
【関連記事】クラウドファンディングとは?仕組みや募集方式とメリット・デメリット
エンジェル投資家からの支援
ベンチャーキャピタルは、将来の株式公開が期待できる企業に対して出資を行う投資会社です。投資先企業が上場した後の株式売却によってキャピタルゲインを得ることを目的としています。
事業の将来性について評価を得られれば、ノウハウの提供といった経営支援も期待できます。ただし、経営の意思決定が制限される可能性もある点に留意が必要です。
事業パートナーとの資金共有・知り合いからの贈与
共同経営者に貯蓄がある場合、資本金として出資を受けることも可能です。ただし、後のトラブル防止のため、援助の金額や日付、氏名・住所などを記載した書類を作成し、押印しておくことが重要です。
家族や親戚から援助を受ける場合は、贈与契約書を作成して取り交わすことで、贈与契約の証明が可能になります。ただし、年間110万円を超える贈与には贈与税が課される点に注意が必要です。なお、親族からの借入は自己資金とはみなされず、借入金として扱われます。
開業資金を借入するためのポイント
開業資金の融資を受けるためには、いくつかの重要な準備が必要です。事前に適切な準備を行うことで、融資の審査に通りやすくなるだけでなく、より有利な条件での借入が可能になります。
ここでは、融資を受けるために押さえておくべき6つのポイントを解説します。
開業届を提出する
個人事業主として融資を受ける際には、開業届を提出しておくことが推奨されます。正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」であり、事業開始から1カ月以内の提出が推奨されています。
制度上、開業届の提出がなくても税務署からペナルティを受けることはありません。ただし、青色申告を行う場合には開業届の提出が必須となります。
確定申告をする
個人事業主は、事業で得た所得に対する所得税を支払う義務があります。この所得税を計算し支払うための手続きが確定申告です。
金融機関から融資を受けるためには、事業で適切に利益を計上し、返済能力があることを示す必要があります。確定申告書類や決算書は、融資機関が返済能力を判断する重要な資料となります。
自己資金や保証人を準備する
基本的に自己資金の確保は重要です。日本政策金融公庫の新創業融資制度においても、創業資金の10分の1以上を自己資金でまかなえることが要件の一つとなっています。
審査担当者は、財政状況が良好かどうかを確認します。自己資金の他、投資も含めた資産がいくらあるか、現時点の借入金はどれくらいあるかなどが審査のポイントとなります。
綿密な事業計画・返済計画を立てる
事業計画は、融資を申し込む際の重要な書類です。融資内容の妥当性を示すために、事業をどのように推進していくのか、具体的な行動を記載する必要があります。
資金用途を明確にし、現実的な事業計画を作成することが重要です。業種ごとの目安を把握している融資担当者は、無理のある計画をすぐに指摘します。綿密な計画立案を心がけましょう。
信用情報を整える
融資の審査では、信用情報も重要な判断材料となります。これまでの融資やクレジットカードでの遅延や滞納の有無、所得税などの税金の滞納がないかが確認されます。
滞納があれば融資を受けられないわけではありませんが、税理士などに相談して対応を検討する必要があります。
複数の融資を並行して申し込む
開業融資の審査・申し込みに必要な書類
開業資金の融資を受けるためには、複数の書類を準備する必要があります。スムーズな資金調達を実現するために、どのような書類が必要になるのか、早めに確認しておきましょう。
以下が主な必要書類です。
・ 開業届
・ 過去の確定申告書
・ 借入申込書
・ 事業計画書
・ 起業概要書
・ 履歴事項全部証明書
・ 決済関連書類
・ 納税証明書 など
まず、融資の申し込み時に必ず必要となるのが「借入申込書」です。申請する金融機関や制度によってフォーマットが異なりますので、それぞれのホームページや窓口で入手し、必要事項を記入します。
事業計画書も重要な書類の一つです。自身の事業をどのように推進していくのか、具体的な行動計画を記載します。融資の審査担当者は、この事業計画書を見て企業や個人事業主が融資を受けるのに適しているかを判断します。
開業後1期以上の決算を終了している状態で日本政策金融公庫の融資を初めて受けたい場合は、「企業概要書」の提出が求められます。これは企業の基本情報や経歴をまとめたものです。ただし、融資の制度や内容によっては、事業計画書があれば問題ないケースもあります。
法人化している場合は、「履歴事項全部証明書」が必要です。これは法務局に登記した企業情報(商号、本社所在地、代表者情報、事業目的等)を確認できる書類です。この書類には、3年前からの変更履歴も記載されています。
すでに事業を開始している場合は、決算関連書類の提出も必要になります。事業計画書が今後のことを記載するものであるのに対し、決算書は過去の実績を示すものです。損益計算書、貸借対照表、別表、勘定科目明細書、税理士の確認書などを、全て提出するようにしましょう。
おすすめの開業資金調達方法まとめ
開業資金の調達方法は複数存在しますが、状況に応じて最適な方法を選択することが重要です。初期段階では、日本政策金融公庫の創業融資など、公的機関が提供する制度を活用するのがおすすめです。これらは民間の金融機関と比較して金利が低く、返済条件も柔軟な場合が多いためです。
事業の成長段階では、より機動的な資金調達手段としてビジネスサポートローンの活用も検討に値します。このサービスでは、最大950万円までの融資枠を設定でき、金利も2.8%~9.6%と比較的低めに設定されています。通常のキャッシングと比べて有利な条件で借入が可能です。
また、事業運営の効率化と資金調達を組み合わせた方法として、セゾンプラチナ・ビジネス・アメリカン・エキスプレス®・カードの利用も推奨されます。年会費33,000円(税込)で、海外利用時には永久不滅ポイントが2倍になるなど、事業経費の削減にも貢献します。ETCカードは最大5枚まで発行可能で、追加カードも最大9枚まで申し込めるため、経費の一元管理も容易になります。
融資審査を有利に進めるためには、具体的な事業計画と返済計画の立案が不可欠です。特に開業初期は予期せぬ支出も発生しやすいため、余裕を持った資金計画を立てることをおすすめします。また、複数の資金調達手段を組み合わせることで、より安定した事業運営が可能になります。