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法律知識

インボイス制度が建設業者に与える影響は?一人親方が準備すべきポイント

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インボイス制度が建設業者に与える影響は?一人親方が準備すべきポイント
建設業者はインボイス制度による影響を大きく受けると言われていますが、まだ制度への理解が追いつかない・制度導入に向けてどのような準備をすべきか分からない、という方も多いのではないでしょうか。ここではインボイス制度の内容を改めておさらいし、一人親方が制度導入前にすべきことについて解説します。

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インボイス制度の内容をおさらい

インボイス制度とは?

インボイス制度とは8%と10%、2種類の税率がある取引の中でも正確に納税額を計算できるように仕組化された制度です。インボイス(適格請求書)には発行事業者の登録番号や適用税率、税率ごとの消費税額を明記したもの、と他にもいくつか規定があり、必要事項が全て明記されていないとインボイスとして仕入税額控除の際に使用することはできません。

またインボイスを発行できるのは税務署に届出をし、インボイス発行事業者として登録を受けた課税事業者のみです。免税事業者はインボイスを発行できないため、免税事業者が取引相手の場合は仕入税額控除を受けることができません。(但し2029年まで経過措置あり)

インボイス制度は2023年10月からスタートすることが決まっていて、インボイス発行事業者への登録申請は2021年にすでに始まっています。

インボイス制度の内容については以下の記事でより詳しく解説しています。
インボイス制度とは? 導入の背景・時期・影響と個人事業主がするべき対応

インボイス制度の導入の影響

今まで免税事業者として取引を行っていた事業者がインボイス発行事業者に登録することで納税の義務が発生したり、インボイスによって複雑化した経費処理への対応など様々な影響があると考えられます。建設業界の一人親方は現状ほとんどが免税事業者として事業を行っていますが、制度導入後は免税事業者との取引はリスクやコストの面から難しいと感じる企業が増えることが考えられます。そのためインボイス制度スタートに備えてインボイス発行事業者に登録を考えている建設業者・一人親方は増えています。

インボイス制度導入による影響について、次の項目でより詳しく解説していきます。

建設業者への影響大!インボイス制度で変わること

インボイス制度が始まることで建設業者・一人親方が受ける様々な影響について詳しく解説します。

仕入税額控除を受けられなくなる

取引相手が免税事業者の場合、インボイスが発行されないため仕入税額控除を受けることができません。建設業界は中小企業や一人親方と言われる免税事業者が多く、これまで問題なく受けられていた仕入税額控除が受けられなくなる影響は大きいことが予想されます。

免税事業者へ発注するリスク・コストが発生する

企業側は取引相手が免税事業者だと仕入に係る消費税が控除されず、結果として必要以上の消費税を納めることになりかねません。また免税事業者が発行する請求書はインボイスとは内容が異なるため事務処理の際に別で取り扱う必要があり、その分のコストや手間が増えることが考えられます。このようなデメリットから免税事業者との取引に対して消極的になる企業が増える可能性があります。

会計の処理が複雑になる

インボイス制度スタート後も免税事業者のまま事業を続ける事業者はもちろんいます。その場合会計処理の際は請求書と適格請求書に分けて管理、保管する必要があります。

インボイス制度導入後の消費税の計算方法には”割り戻し計算”と”積上げ計算”の2種類または”併用”があり、事業者は任意で選ぶことが可能です。ただ場合によっては計算方法が適用できない場合や計算方法によって納税額が変わるなど、複雑な会計処理から事務負担の増加が懸念されています。

一人親方・大工でも消費税の納税が求められることになる

インボイスを発行できるインボイス発行事業者になるということは、同時に課税事業者になるということです。免税事業者だった一人親方・大工もインボイス発行事業者になった場合、今後は納税を求められることになります。

適格請求書発行業者になるための手続きが必要になる

適格請求書を発行するには適格請求書(インボイス)発行事業者に登録し登録番号を取得する必要があります。申請書類に記入し所轄の税務署長に提出することで適格請求書発行事業者への登録が可能です。

偽装請負問題の解消

偽装請負問題とは、書類上は個人事業主のような形で業務委託契約としながら社員と同じように働かせることです。企業側は社会保険料などの支払いを免れるため従業員に一人親方として独立を促し、結果として偽装請負と言われる違法な状態での雇用となっている状態が多くありました。インボイス制度の導入により一人親方になることのリスクなどを考えると、そもそも独立を促し一人親方にさせようとすること自体に違和感を覚えやすく、偽装請負問題の解消に繋がると考えられています。

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インボイス制度に対応するために。一人親方がすべきこと

課税事業者になるための手続きをおこなう

インボイスを発行できるインボイス発行事業者は対象が課税事業者なので、まずは課税事業者への登録を行います。但しインボイス制度には経過措置期間(2023年10月1日〜2029年9月30日)が設けられています。申請前が免税事業者の場合、この経過措置期間に適格請求書(インボイス)発行事業者の登録申請書を所轄の税務署長に提出することでインボイス発行事業者と同時に課税事業者の登録も完了します。申請用紙は国税庁のホームページからダウンロードできます。
国税庁ホームページ

インボイス制度に対応した請求書の書き方を覚える

従来の請求書とは違い適格請求書には必須項目が増えています。1つでも欠けるとインボイスとして使用できないため、事前に内容を理解し書き方を覚えておくといいでしょう。

簡易課税制度への変更を検討する

インボイス制度によって複雑化する会計処理による事務負担を軽減するために「簡易課税制度」という制度があります。簡易課税制度では事務負担は軽減しますが、還付金が受けられないなどのデメリットもあるため、制度を受けるにあたって慎重に検討することをおすすめします。簡易課税制度について以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:インボイス制度導入前に覚えておきたい!免税事業者が「簡易課税制度」を選択する際の注意点

減収を前提とした資金繰りをおこなう

インボイス発行事業者になることで納税の義務が発生します。今まで免税事業者として事業を行っていた時に比べ、減収になる可能性が高いため、減収を想定した資金繰りを行うことが重要です。

取引先とインボイス制度導入後の取引について話し合っておく

発注側は免税事業者との取引では仕入税額控除が受けられなくなります。そうしたインボイス制度による影響について一人親方は取引先とよく話し合っておく必要があります。以前まで消費税分も含めた料金だったのに対し、制度導入後は仕入税額控除を受けられないことによる消費税分の値下げを要求されるかもしれません。また、発注側である取引先がインボイス制度導入後は課税事業者との取引に変更しようと考えている場合もあり、その辺りについても事前の話し合いが大切です。

まとめ

建設業者は中小企業や一人親方など、ほとんどが免税事業者のため、インボイス制度によって影響を受ける事業者が多いことが予想されます。インボイス制度導入後はインボイス発行事業者になることで納税の義務や複雑な経費処理、減収を前提とした資金繰りなど今までとは違った対応が求められる場面が増えます。事前に制度をよく理解し課税事業者になるのか、または免税事業者のままで事業を継続するのか、取引先とよく話し合うことも含めて準備をしっかりしておくことが大切です。

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