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法律知識

売上1,000万円以下の事業者への影響は?インボイス制度の内容と適用前に準備すべきポイント

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売上1,000万円以下の事業者への影響は?インボイス制度の内容と適用前に準備すべきポイント
インボイス制度が始まるにあたり、今まで免税事業者として事業を行っていた小規模事業者・個人事業主も課税事業者へ登録するケースが増えています。事業を行っている人の多くに影響のあるインボイス制度ですが、中でも売上1,000万円以下の事業者への影響は大きく、制度をよく理解し事前に対策することが重要です。この記事ではインボイス制度の内容や事前に準備しておくべきポイントについて詳しく解説します。

インボイス制度って?何が変わる?

インボイス制度って?何が変わる?

インボイス制度がスタートする前に制度の内容について正しく理解しておく必要があります。制度内容やインボイス制度が施行されたあとの様々な影響について解説します。

インボイス制度の概要

インボイス制度は正式名称を「適格請求書等保存方式」といいます。インボイスとは”請求書”のことで、請求書の中でも特に今後課税事業者の取引に欠かせない”適格請求書”を意味しています。

請求書と言ってもインボイス制度で定められた必要事項が正しく記載されているものであればレシートや納品書、領収書などの書類でもインボイスとして利用が可能です。

2023年10月1日からインボイス制度がスタートすることが決まっていますが、この制度導入には2019年に導入された「軽減税率制度」が関係しています。軽減税率制度の導入によって8%と10%、2種類の税率が請求書内に混在する状況となりました。

そういった複数税率が混在した取引でも正しい納税額を算出するために導入されたのが「インボイス制度」です。インボイス(適格請求書)には従来の請求書に記載されていた内容に加えて以下が必須となりました。

・インボイス発行事業者の登録番号
・軽減税率の対象品目であることの記載
・税率ごとの取引合計金額
・税率ごとの消費税額

ちなみにインボイスを発行できるのはインボイス発行事業者のみで、免税事業者は発行することができません。インボイスを発行するには所定の手続きをし、インボイス発行事業者になる必要があります。

インボイス制度の導入によって変わること

インボイス制度導入後は従来の請求書や帳簿の保存のみでは仕入税額控除が受けられなくなります。仕入税額控除を受けるにはインボイス制度の中で定められた必要事項(登録番号など)を明記したインボイス(適格請求書)が必須となります。またインボイス発行事業者には求められた場合のインボイス発行とその写しの保存が義務づけられます。

免税事業者はインボイスを発行できないので、企業側は免税事業者との取引に関して一切の仕入税額控除を受けられなくなります。企業側は取引する際に免税事業者を避け、新たな取引相手に課税事業者を選ぶということも考えられ、結果として免税事業者にとって仕事を受けづらい状況になる可能性があります。

また他には制度導入前に発生していた益税問題の解消にも効果が期待されています。これまで売上1,000万円以下の小規模事業者・個人事業主は取引の際に預かった消費税を納税する義務がなく、手元に残しても良いとされていました。この”益税”と呼ばれる、本来納められるべき税金が事業者の利益になっている状態が以前から問題視されていました。

インボイス制度導入に向けて課税事業者への登録が増えていることから、今まで免税事業者として益税を利益に含めていた事業者でも課税事業者へ登録変更することで納税義務が発生し、結果として税金が正しく納められる仕組み作りへと繋がります。

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売上1,000万円以下の事業者は?インボイス制度が小規模事業者に及ぼす問題点

売上1,000万円以下の事業者は?インボイス制度が小規模事業者に及ぼす問題点

これまで売上1,000万円以下の小規模事業者・個人事業主は納税義務が免除されていました。しかしインボイス制度を導入する場合は小規模事業者・個人事業主でも納税の義務が発生します。2023年10月1日以降、インボイス制度が売上1,000万円以下の事業者に与える影響について「制度導入なし」と「制度導入あり」に分けてそれぞれ解説します。

インボイス制度を導入しない場合

・仕入消費税の納税義務が免除される
インボイス制度を導入しない場合は免税事業者のままなので、仕入消費税の納税義務が免除されることに変わりはありません。

・既存の取引先との契約が難しくなる
インボイス制度がスタートすると仕入税額控除の際にインボイス(適格請求書)が必須となります。
今まで使用していた請求書では仕入税額控除が受けられなくなり、インボイスを発行できない免税事業者のままだと取引先に敬遠されやすく、契約が難しくなる可能性があります。

インボイス制度を導入する場合

・適格請求書発行事業者の登録が必要
インボイス制度を導入しインボイスを発行するには、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)への登録が必要です。適格請求書発行事業者への登録は基本的には課税事業者が対象ですが免税事業者の場合は「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出し課税事業者になることで登録が可能です。
但しインボイス制度導入にあたり経過措置が設けられており、2023年10月1日~2029年9月30日の期間内で適格請求書発行事業者登録を受ける場合には、消費税課税事業者選択届出書を提出する必要はありません。

・経費処理が複雑化する
取引先が複数の場合は適格請求書とそれ以外を分けて、経費処理するため事務作業への負担が増えることが考えられます。また、納税額算出の際、今まで商品ごとに計算していたものが税率ごとの計算になる、割り戻し計算以外に積み上げ計算が認められる、などの変更点がありシステムの変更作業なども必要となります。

・消費税の納付義務が発生する
インボイス制度を導入しインボイス発行事業者になるということは同時に、課税事業者になるということで納税の義務が発生します。

インボイス前に対応を!売上1,000万円以下の事業者がすべきポイント

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ここまではインボイス制度の内容、制度によって受ける影響について解説しました。
ここからはインボイス制度がスタートする前に売上1,000万円以下の小規模事業者や個人事業主が準備しておくべきことを説明します。

インボイス制度への登録の準備

インボイス制度へ登録するには「適格請求書発行事業者の登録申請書」に記入し、所轄の税務署長に提出する必要があります。登録に関する申請用紙は国税庁のホームページからダウンロードが可能です。
インボイスとして利用できる書類の中にはクレジットカードの利用明細なども含まれます。新たにビジネスカードの利用をお考えの場合は、カード発行審査の期間(通常2週間程度)などもあるため、早めに検討されることをおすすめします。
また経費処理の複雑化に備えたシステムの変更作業なども対応しておく必要があるでしょう。

まとめ

納税額を正しく算出するために2023年10月1日より施行されるインボイス制度ですが、施行後はインボイス発行事業者に登録することで、売上1,000万円以下の小規模事業者や個人事業主にとって今まで無かった”納税義務”が発生することになります。また同時に、複雑化した納税額算出・求められた場合のインボイス発行と保存などの対応が求められます。
インボイス制度への登録は義務ではありませんが、制度を導入しない場合インボイスを発行できないことによる既存契約継続の難しさや新規契約獲得の難しさなど、売上が少額の事業者にとってマイナスのダメージが避けられない可能性もあります。インボイス発行事業者に登録するには申請用紙に必要事項を記入し所轄の税務署長への提出が必要ですので、インボイス制度がスタートする前に「制度を導入した場合」「制度を導入しない場合」それぞれの影響を慎重に考えた上で検討されることをおすすめします。

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