裁量労働制とは?メリット・デメリットや残業代、導入手順をわかりやすく解説
裁量労働制は労働時間に関する制度で、労働時間を個人の裁量にゆだねる働き方です。本記事では、裁量労働制の詳細や他労働制度との違い、メリット・デメリットなどを解説します。


裁量労働制の概要
労働時間制度のひとつである裁量労働制は、労働時間を実際に働いた実働時間ではなく、あらかじめ定めた一定時間にみなす制度です。つまり、勤務時間の制限がなくなり、労働者の裁量で労働時間を管理できます。
裁量労働制は「みなし労働制」と呼ばれ、実際の労働時間に関係なく、労使で契約した時間分が報酬として支払われる制度です。例えば、裁量労働制で1日8時間の契約(みなし労働時間)を交わした場合、実際の労働時間が6時間であっても8時間分の報酬が支払われます。
裁量労働制と他労働制度の違い
裁量労働制の導入にあたっては、裁量労働制と混同されることが多い下記の他労働制度との違いを把握しておくことも大切です。
● フレックスタイム制度
● 高度プロフェッショナル制度
● 変形労働時間制
● 事業場外みなし労働時間制
それぞれの制度の内容と、裁量労働制との違いについて以下で詳しく紹介します。
フレックスタイム制度との違い
裁量労働制と間違えやすい働き方がフレックスタイム制度です。フレックスタイム制度では、1日の労働時間と基本の就業時間帯(コアタイム)を規定します。
● 1日の労働時間:8時間(休憩1時間別)
● コアタイム:11時から16時まで
この例では労働者は1日8時間働き、11時~16時までの5時間は会社で就業する必要があります。
出社・退社時間は自由なので、「7時~16時(休憩1時間)」でも「11時~20時(休憩1時間)」でも条件がクリアされていれば時間の設定は自由です。
フレックスタイム制度はみなし労働制ではなく、就業時間を一定程度自由にする制度だと理解しておきましょう。
高度プロフェッショナル制度との違い
高度プロフェッショナル制度は、一定の年収要件(年収1,075万円)以上を満たし、高度の専門的知識を持つ労働者を対象に、労働時間に関する労働基準法の適用を廃止する制度のことを指します。
高度プロフェッショナル制度と裁量労働制は、労働時間の長さではなく労働の成果や質によって報酬を定めるという点においては共通していますが、下記の点において裁量労働制とは性質が異なります。
● 対象労働者の職種や業種の範囲が限定されている
● 年収要件(年収1,075万円)が規定されている
● 労働基準法の適用がない(時間外手当て、深夜労働や法定休日の労働に対する割増賃金など)
裁量労働制では、対象となる労働者の範囲が広く設定されており、みなし労働時間に基づいて時間外労働(残業)や深夜労働が発生した場合には、割増賃金も支払われます。
一方、高度プロフェッショナル制度にはこうした割増賃金の規定はなく、残業代のお支払い義務はありません。
ただし、高度プロフェッショナル制度では過度な労働を防ぐために休日の確保や、選択的措置により労働時間の上限や健康管理時間の把握などが必要とされています。
変形労働時間制との違い
変形労働時間制とは1年、1ヵ月、1週間などの一定の期間に、変形期間における法定労働時間の総枠の範囲内で、法定労働時間を超えて労働させられる制度のことを指します。
例えば、「月の前半は忙しくないが、後半は忙しい」「夏は忙しいが、冬は忙しくない」といった閑散期と繁忙期が明確な業種は変形労働時間制を導入することにより、労働時間を減らす・増やすといった柔軟な対応が可能になります。
裁量労働制との違いは、下記のとおりです。
● 対象労働者の職種や業種の範囲が限定されない
● 「法定労働時間の総枠」を超えた部分に対して時間外手当が支払われる
裁量労働制でも時間外手当や深夜労働などによる割増賃金は適用されますが、変形労働時間制の場合は「法定労働時間の総枠」が決められており、その範囲を超える分に支払われます。
それぞれ計算方法が異なる点には注意しましょう。
事業場外みなし労働時間制との違い
「みなし労働時間制」は実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定められた時間を働いたものとみなす制度で、裁量労働制はみなし労働時間制のひとつです。
みなし労働時間制には、そのほかに「事業場外みなし労働時間制」があります。
職種による制限はないものの「使用者の指揮監督が及ばない業務」が対象として、外回りの営業職やテレワークなど当該業務に係る労働時間の算定が困難な場合に用いられ、「特定の時間労働した」とみなす制度です(具体的な指示のもとで働いている場合は除く)。
裁量労働制も事業場外みなし労働時間制も「みなし労働時間制」のひとつのため、共通点は多いですが、裁量労働制には対象となる職種がある点で違いが見られます。
裁量労働制で対象となる職種は後述していますので、そちらもご確認ください。
裁量労働制のメリット・デメリット
裁量労働制は今までの働き方を変えるとともに、一部の専門職にとっては時間的な制約から解放してくれるうれしい制度です。
ただし、裁量労働制にはメリットだけでなく、デメリットもあります。
また、裁量労働制のメリット・デメリットは企業側と従業員側で異なるため、実際に導入するかどうかは、それぞれの視点から見たメリット・デメリットを考慮したうえで検討する必要があります。
以下では、裁量労働制のメリット・デメリットを紹介します。
メリット
裁量労働制の主なメリットは以下のとおりです。
| 企業側のメリット | ・裁量労働制を導入すると基本的に時間外手当が発生しないため、労務管理の負担が減る |
|---|---|
| 従業員側のメリット | ・時間の制約がなく自由に作業できる ・作業ペースを自分で管理できる ・作業効率を高めやすい |
一部の専門職において、時間的な制約は作業効率を下げてしまいます。例えば、研究開発部門では時間の制約をせず、自由に作業したほうが効率的です。
ときには十分休憩して頭をリセットさせることも必要でしょう。専門職にとって作業ペースを自分で管理できるのは魅力的な環境です。
また、作業効率を高められれば、少ない労働時間で十分な成果をあげられます。労働者の努力により労働時間を短縮できるので、労働者間の不公平も解消されます。
デメリット
続いて、裁量労働制を導入するデメリットを見ていきましょう。
| 企業側のデメリット | ・導入には手続きが必要 ・労働時間の管理や作業量の調整が必要 |
|---|---|
| 従業員側のデメリット | ・ある程度の自己管理能力が必要 ・要求される作業量が労働時間に見合わない場合、労働時間が長くなる可能性がある |
裁量労働制を導入するには、いくつかの手続きが必要です。専門職では過半数労働組合か過半数代表者との労使協定が必要であり、企画職は労使委員会で決議しなくてはなりません。
また、労働時間の管理や作業量の調整も必要です。労働時間に見合った作業量を考慮せずに裁量労働制を導入した結果、時間内に作業が終わらず、労働時間がかえって長くなってしまう可能性もあるでしょう。
実際に裁量労働制を採用している企業では長時間労働が原因で労働者が精神疾患を発症し、労災認定されている例もあります。
そのような事態を避けるために、会社は労働基準監督署への定期的な報告が義務付けられており、労使で労働時間を厳重に管理することが大切です。
裁量労働制が適用される職種
現在、裁量労働制が適用されているのは、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2つです。
専門業務型裁量労働制は専門性が高い職種で、企画業務型裁量労働制は企画や立案などの職種が該当します。
以下では、現在裁量労働制が適用される職種をより詳しく紹介します。
専門業務型裁量労働制
「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務」のなかで指定された19業種が専門業務型裁量労働制に該当します。
1. 新商品、新技術の研究開発
2. 情報処理システムの分析・設計
3. 記事の取材・編集の業務
4. デザインの考察
5. 放送番組、映画等のプロデューサー、ディレクター
6. コピーライター
7. システムコンサルタント
8. インテリアコーディネーター
9. ゲーム用ソフトウエア開発
10. 証券アナリスト
11. 金融商品開発
12. 大学教授
13. 公認会計士
14. 弁護士
15. 建築士(一級建築士、二級建築士、木造建築士)
16. 不動産鑑定士
17. 弁理士
18. 税理士
19. 中小企業診断士
企画業務型裁量労働制
「事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査および分析を行う労働者」を対象にしたのが企画業務型裁量労働制です。
この制度は上司からの指示を受けるのではなく、自律的でフレキシブルな働き方ができる方が対象です。また、以下のように導入できる事業所もあらかじめ規定されています。
1. 本社・本店である事業場
2. 事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行われる事業場
3. 独自に事業の運営に影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行う支社・支店等
裁量労働制における労働時間のしくみ
裁量労働制を理解するには、労働時間のしくみを知る必要があります。以下では、みなし労働時間・残業・36協定など労働時間に関する主な規定を解説します。
みなし労働時間と残業
みなし労働時間とは実際に働いた労働時間ではなく、裁量労働制の契約に定められた労働時間のことです。
みなし労働時間を8時間としている場合は、実際の業務が5時間であっても8時間分の報酬が受け取れます。
なお、裁量労働制を導入すると原則として残業の概念がなくなりますが、契約時のみなし労働時間が法定労働時間(8時間)を超える契約では、超過した時間に対しての割増賃金が必要です。
例えば、みなし労働時間を9時間にした場合は、1時間分の割増賃金を加算しなくてはなりません。
残業代を一律で支給する「みなし残業制度」がありますが、これは裁量労働制とは別制度です。みなし残業は規定した残業時間を一律で支給しますが、それを超えた残業代は別途お支払いが必要です。また、労働者に裁量はなく、管理者の指示で勤務します。
36協定
労働基準法第36条に規定される「時間外および休日の労働」により、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超える労働は、あらかじめ労働者の代表と協定(36協定)を結ばなくてはなりません。
また、36協定を結んでも残業時間が月間45時間、年間360時間を超える労働は違法です。
裁量労働制を導入しても36協定は適用され、みなし労働時間が1日8時間を超える場合は、36協定が必要です。また月間、年間の上限も適用されます。
休日出勤と深夜労働
裁量労働制であっても休日を定める必要があり、休日出勤をした場合は通常の賃金に35%以上を上乗せした休日手当を支払う必要があります。
また、22時から翌5時までの時間帯に深夜労働をした場合、裁量労働制であっても割増賃金が支払われます。深夜労働をした場合の賃金の割増率は25%以上です。
裁量労働制の問題点と対策
開始されて間もない裁量労働制ですが、実際に導入することでいくつかの問題点も浮上しています。働き方を変える試みに潜むいくつかの問題点を紹介します。
裁量労働制に適用されない業種がある
裁量労働制が適用される業種は前述したとおり、法律で規定された一部の業種です。働き方を変える裁量労働制を導入したくても、適用外であることから諦める会社も少なくないでしょう。
対策としては、事業部署を細分化して、裁量労働制の対象にするのも方法のひとつです。
ただし、残業代の抑制目的で不正に労使協定を結んだり、架空の部署を新設したりする行為は違法です。
長時間労働や休日出勤が多い
裁量労働制は効率的な労働環境を整えることを目的としていますが、裁量を得たことで長時間労働や休日出勤が増える場合があります。
これは就業時間の概念がなくなることで、時間意識が薄れることが原因かもしれません。また、みなし労働時間が業務に必要な労働時間と乖離している可能性もあります。
対策としては、みなし労働時間と実業務を比較して、みなし労働時間が適切かを判断します。また、労使間で時間管理を徹底することも大切です。
裁量労働制に合った評価が難しい
裁量労働制は労働時間ではなく、その成果を求められる制度です。しかし、企業の評価システムが裁量労働制に対応できずに、正しい評価がされないケースも少なくありません。
契約時に評価方法を確認することや、業務における成果をまとめて報告することが大切です。
管理者が労働時間を管理しない
会社によっては、「裁量労働制なら個人の判断でいくらでも残業できる」と管理者が勘違いしてしまうケースが見られます。
個人の裁量で仕事ができるからといって、管理者が労働時間の管理をしなくていいわけではありません。裁量労働制であっても法定労働時間や36協定が適用されるので、契約時に細かく確認してください。
実際に労働者の裁量がない
裁量労働制は本来、労働者が自分の裁量で仕事の進め方を決めることが前提となっています。しかし、実際には管理者などから仕事の進め方について厳しく拘束され、労働者の意思に反した深夜労働を余儀なくされるようなこともあります。
会社が裁量労働制を採用する場合には、労働者の裁量にゆだねることのできる仕事内容であるかを事前によく検討すべきです。
また、裁量労働制を採用する場合は、労使ともに裁量労働制の趣旨を正しく認識できるように社内で十分に周知し、継続的に監督することが大切です。
裁量労働制の導入に関する相談はどこで受け付けている?
裁量労働制を導入すべきかどうか悩むとき、導入方法がわからないときなどは専門家に相談するのがおすすめです。専門家を頼ることでスムーズに裁量労働制を導入できるうえ、前述した問題点の対策に関する相談も行えます。
裁量労働制の導入に関する主な相談先としては、労働基準監督署や働き方改革推進支援センター、社会保険労務士、弁護士などが挙げられます。
裁量労働制の導入手順
前述のとおり、裁量労働制には専門性が高い業務が対象となる「専門業務型裁量労働制」と、企画・立案・調査・分析を行う業務が対象となる「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。
2つの裁量労働制は導入手順が異なります。
以下でそれぞれの導入手順や必要な届出を解説します。
「専門業務型裁量労働制」の導入手順
「専門業務型裁量労働制」の導入にあたっては、原則として下記の7つの事項を労使協定により定めたうえで、厚生労働省が提供する様式第13号に記入し、所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。
1. 制度の対象とする業務
2. 対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
3. 労働時間としてみなす時間
4. 対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
5. 対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
6. 協定の有効期間
7. 4及び5に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること
厚生労働省の公式サイトでは、様式第13号の記入例も掲載されていますので、参考にしてみてください。
「企画業務型裁量労働制」の導入手順
一方で、「企画業務型裁量労働制」は、下記の手順で導入します。
1. 対象業務が存在する事業場かどうかを確認
2. 労使委員会を組織する
3. 労使委員会の設置に係る日程、手順等について話し合う
4. 労使委員会の委員を選ぶ
5. 労使委員会の運営のルールを定める
6. 企画業務型裁量労働制の実施のために労使委員会で決議を行う
7. 対象となる労働者の同意を得る
8. 3の決議に従い企画業務型裁量労働制を実施
「企画業務型裁量労働制」に当てはまる業務では、労使委員会を設置し、以下の8つの事項について、委員の5分の4以上の多数による議決が必要となります。
● 対象となる業務の具体的な範囲
● 対象労働者の具体的な範囲
● 労働したものとみなす時間
● 使用者が対象となる労働者の勤務状況に応じて実施する健康及び福祉を確保するための措置の具体的内容
● 苦情の処理のため措置の具体的内容
● 本制度の適用について労働者本人の同意を得なければならないこと及び不同意の労働者に対し不利益な取扱いをしてはならないこと
● 決議の有効期間
● 企画業務型裁量労働制の実施状況に係る記録を保存すること(決議の有効期間中及びその満了後3年間)
上記の決議後、所轄労働基準監督署にすみやかに届け出をし、実施後は6ヵ月以内ごとに1回定期報告を行う必要があります。
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裁量労働制に関するよくある質問
ここからは、裁量労働制に関するよくある質問とその回答を紹介します。
Q1 裁量労働制でも残業代は発生する?
裁量労働制は実際に働いた実働時間ではなく、あらかじめ定めた労働時間分を働いたものとみなす制度です。
実働時間を基に労働時間を数えていないため、裁量労働制には残業という概念がありません。そのため、裁量労働制を導入する場合は基本的に残業代が発生しません。
ただし、みなし労働時間が法定労働時間の8時間を超える場合は残業代が発生します。
Q2 裁量労働制にはデメリットしかない?
裁量労働制はさまざまなメリットがある一方で、「裁量労働制はデメリットしかない」という声も一部あります。こうした声があがっている主な理由としては、以下の2点が挙げられます。
● みなし労働時間内に見合わない作業量や成果を要求され、長時間働かざるを得なくなっている
● 長時間働いても残業代が増えない
裁量労働制を導入するかどうかは、上記のような意見があることも把握したうえで慎重に決めなければいけません。
まとめ
裁量労働制は、労働時間を個人の裁量にゆだねる働き方です。就業時間の概念がなくなり、個々の働きやすいスケジュールで従業員が勤務できるというメリットがあります。
また、裁量労働制には似た複数の労働制度があるため、導入を検討する際は混同してしまわないよう注意が必要です。
なお、裁量労働制の導入にあたっては、労使協定の制定や労使委員会の設置が必要です。残業代請求をはじめとした導入後のトラブルを避けるには、経営者だけでなく労働者も納得できる労使協定・勤務管理体制の整備が重要になります。
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この記事を監修した人

【保有資格】
弁護士、宅地建物取引士




